いま、日本全国では、使われなくなった学校、公民館、庁舎、公園、土地などなど、自治体が所有して活用に困っている公共不動産がどんどんと増加しており、R不動産のグループサイト「公共R不動産」では、その活用に少しでもつなげていければと各自治体が所有する公共不動産物件情報をデータベース化して情報発信したり、活用方法を知ってもらうための読み物などを連載しています。
(「公共R不動産」HP)
そして昨年、福岡県×公共R不動産+福岡R不動産で福岡県内の公共不動産の活用を推進するプロジェクトが実施され、自治体も公共不動産の民間活用に前向きな動きが出てきていたり、自治体ならではの物件情報が出てきたりと、県内各自治体においてもその機運が高まってきています。そこで、県内の公共不動産にまつわる動きをより多くの人にも知っていただくために、いくつかの自治体の方々にインタビューをさせていただけることに。
その第3弾は、今回は福岡市と北九州市の中間に位置する「宗像市」。その中でも福岡県内では最大の離島面積を誇る「大島」にスポットを当て、宗像市職員で大島行政センターに勤務する西畑さんにお話を伺うとともに、大島公共不動産ツアーと題した視察を敢行。福岡県庁職員さん、県内事業者さんご同行のもと島内の公共不動産を巡ってきました。
(宗像市の西畑さん。(左から3番目)今回は、福岡県職員のお二方(左から1,2番目)、県内事業者のお三方(左から4,5,6番目)にもご同行いただきました。)
(大島へは、宗像市の神湊港渡船ターミナルから15分〜25分の船旅を経て到着です。)
「本日はよろしくお願いします。さっそくですが、本当に気持ちの良い島ですね!」
ありがとうございます。大島は宗像市本土から約7km先にあり、周囲約15kmと福岡県内で最も大きな離島です。現在は約600人の住民が生活をしています。
近海は、豊富な魚介類を育む県内有数の漁場となっているので、もちろん島の産業は漁業が主体です。宗像市本土にある、新鮮な食材が手に入ることで連日大盛況の「道の駅むなかた」にも島の漁師さん達のお魚がたくさん並んでいるんですよ。また、一般の釣り人にとっても絶好の釣場として人気があり、それに関連した宿泊業も古くから盛んで、今でも10ほどの宿泊施設が営業されています。
(遠く沖合には、漁船や輸送船の数々が行き交います。)
(ダイナミックな景色は、県内最大面積を誇る離島ならでは。)
(釣り堀も併設する海洋体験施設「うみんぐ大島」はファミリーを中心に大人気なのだそう。)
平成29年には「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群がユネスコの世界遺産リストに登録されたことをきっかけに、年間の来島者数は(新型コロナウイルス発生以前の段階で)増加しているという状況です。ただ、そのほとんどが日帰り客ということで、新たな観光業の創出や、そこに宿泊をセットで考えてもらえるような仕組み作り、島内の見所を充実させていくことなどが現状の課題になっています。
(世界遺産の一つである宗像大社中津宮からの眺望。大島と言えば、やはり神社と海。)
(冬至の前後40日あたりの数日間だけ見ることができる光の参道は、通称「朝日の道」として親しまれていて、とても美しい。)
(観光客向けに電動自転車やレンタカーなども準備されています。背景には大島らしい漁船の数々が。)
島自体、住宅地や産業の中心は大島港渡船ターミナル周辺の南側市街地に集まっているのですが、それ以外は小高い山林が土地の大半をしめています。北側は漁師町の雰囲気とは一転して、良い意味で日本らしくないような、どことなく西洋を思わせるダイナミックで美しい風景が広がっているんですよ。天気の良い日には神宿る島と言われる「沖ノ島」を眺めることができるスポットもあって、島民の皆さんは「今日は沖ノ島が見えそうやね。」とか、そういう会話を常日頃からされているほど、神様への信仰心が独自の文化として生活の中に強く根付いています。
(規格外に美しい景色。あの風車を活用できたら…。なんて妄想をした方、いますね?)
お越しいただく際には、世界遺産関連群をご覧になっていただくことはもちろん、この島独自の文化が織りなす雰囲気や、ゆったりと流れる時間、透明度の高い海、新鮮な魚料理なども楽しんでいただいて、心も身体も芯からリフレッシュしていただけると嬉しいです。
(まさに島時間。ここにいるだけで、心がゆったりとします。)
「個人的に大島へ来るのは10年ぶりですが、以前よりも市街地のお店が増えたり、島の雰囲気が明るくなっているように感じました。」
平成29年の世界遺産登録と、市による大島島内への新規出店事業者への助成金制度をきっかけに、多くの事業者さんに開業していただき、少しずつ町の風景に反映されてきているのだと思います。
これからも様々な形で事業者さんのお力をお借りしたり、連携したりすることで、島内事業を活性化・定着化させていきたいという気持ちです。
(2020年6月にオープンされたばかりの「春乃日」さんでお刺身ランチ。お味も新鮮度も、期待通りの星5つ。)
「今回は島の中心市街地から、歴史的な雰囲気を感じる旧行政センター、ビーチを正面に構える眺望が素晴らしい交流館の3階フロアなど、ユニークかつポテンシャルの高い物件をエントリーしていただきました。」
まさに、それを自負しているからこそ活用していただきたい一心なんです。なかでも、交流館の3階についてはとても自信を持ってエントリーさせていただいています。
実は大島は、ほぼ全ての方位を岩場に囲まれていて砂場のビーチは一つしかありません。その唯一のビーチである「かんす海水浴場」の目の前にあるのがこの物件で、居室の窓からは海水浴場を眺めることができます。
水道はもちろん電気も通っていますし、令和2年には島自体に光インターネットの回線が完備されたこともあって、その他のエントリー物件も含め、活用の可能性がより高まったのではないかと考えています。
交流館3階からの眺望。文句なしのロケーションに仕事も捗りそうですね。
(眺望だけでなく、配管類の残る厨房跡や広々とした区画など、リノベで化けそうな雰囲気です。)
(旧大島行政センターは、書庫や屋上のほか、レトロな外壁やフロアサインなどユニークな要素が盛り沢山。)
(かんす海水浴場は、リラックスムードたっぷりです。パームツリーがまた最高。)
「素敵な景色ですね。どのような活用を望まれますか?」
この景観や周辺環境を生かしたワーケーションとの相性がいいのではと考えております。ただ、観光を伸ばしつつ、これに付加価値をつけていきたいと思っているので、島に人を呼び込める事業者さんであればよりうれしいですし、たくさんのご提案もいただきたいです。
また、過去に活用の可能性を探る中で、いくつか課題が見えてきたという経緯があり、それを共有させてもらった上で解決する力のある事業者さんとのご縁を望んでいます。具体的には、大島自体、釣り客を除いた観光客数は年間5万5千人程で、季節的な割合としてはやはり夏季に集中しており、冬季については閑散としている状況ですので、例えば、何かしらの店舗として活用する場合などにはネックになるかなと危惧しています。あとは、フェリー自体一隻250人程度が定員(1日7便運行)となっていて、1日ないし一定時間帯内で来島できる人数は限られてしまいます。そこに、日常の足として使われている島民の人数まで換算すると、よりその人数は限られるかなと。
一方で、近年では「かんす海水浴場」で島内事業者さん主催の映画祭が開催され、島外からもたくさんの人にお越しいただけたという実績もありますし「工夫や内容次第では人を呼べる魅力がある島なんだ」っていう自信がより高まってきていて、短期間や期間限定の活用も含め、まずは積極的にご相談いただきたいと考えています。
(”大島砂浜映画館”主催者の一人である草野さん(右)が営む「むすびカフェ」にて、西畑さんと。)
(視察中の一コマ。交流館屋上の共用スペースにて、この眺望を活かすべくアイデアを模索中。)
「大島には、例えば海士(あま)さんがいらっしゃったりしますし、この島ならではの”何か”との化学反応にも期待してしまいます。」
はい。事業者さん同士や地元住民との結びつきは我々としても期待しているところです。
コミュニティがコンパクトであるという点は、島で事業を営むうえで一つのメリットだと考えています。物理的な距離が近いこともそうですが、精神的にも大島という限られたスペースで活動しているという共通意識みたいなものを皆さんの中から感じるんですね。実際に、島の活性化に纏わる協議会の中で、今後の島の観光についての方向性を事業者全体を巻き込んで意見交換する場が設けられたり、それは年々強くなってきていると感じます。
また、そんな環境ですから、私のような行政マンにとっても皆さんの信頼一つ一つが特に重要で、日頃からすごく意識しています。フットワークの軽さやコミュニケーションの濃厚さは、本土の職員には真似できない強みだと思っていますので、新しく来られる事業者さんについても「あの人と繋がりたい」とか「こんなことしてみたい!」っていう時、気軽に声をかけていただける存在でありたいと思っています。
(穏やかな口調ながら、島への熱い想いを感じさせてくれる西畑さん。)
「相談と言うと、本日同行していただいた事業者さんから島全域を活用した形での事業のご提案が上がっていましたね。」
まさに即興逆プロポーザルとも言える貴重なご提案でした。やはり、我々では思いつかない角度やスケールの構想をお持ちなんだなと聞いていてワクワクしましたね。実際には、市の判断だけで動かすことのできない土地や施設もあったりしますが、管理者とのタイアップで道が開ける可能性もあるのかもしれないと考えていて、市としてもできる限りのバックアップはさせていただきたいと思っています。
また、今回お見せできていない遊休不動産などもありますので、ご相談の内容によっては、目的にマッチングするようなものをご提案できることがあるかもしれません。
そういう意味では、エントリー物件だけでなく島全体に目を向けていただけたということは一つの自信になりました。ストレートに物件を気に入って活用していただけるならそれが一番ありがたいのですが、その入り口は一つではないと思っています。多角的にこの島の振興に関わっていただく過程で、結果、遊休不動産活用に繋がるということも少なからずあるのかなと。
面白い場所にこそ面白い人は集まると思うので、今回の事業を皮切りに、もっともっと色々な角度から挑戦し続けたいと思っています。
(なにげない風景すら素敵なこの島には、ポテンシャルを秘めた不動産が数多く眠っているのかもしれません。)
実際に島の各地を巡らせてもらった今回、福岡県にこんなポテンシャルを秘めた離島があったのかと、僕らとしても大きな可能性を感じる取材となりました。
また、実際に活用を検討するにあたって、西畑さんのような情熱を持った担当者との出会いは、魅力的な物件と出会うことと同じくらい価値の大きいものです。
それに何より・・・島ってワクワクしますよね!島の日常と、渡って外からやってくる非日常感、何だか素敵なシナジー効果が生まれそうな予感がします。
福岡県公共不動産活用推進プロジェクトでは、福岡県街なか遊休公共不動産の情報公開として福岡県内自治体が活用を希望する公共不動産情報をデータベース化して福岡県HP内で公開中です。福岡県内の公共不動産にご興味のある民間企業や事業者の方々などは是非データベースをご活用ください。
なお、今回ご紹介した宗像市の活用検討物件、その他お問い合わせについては、下記メールアドレスにご連絡ください。
お問い合わせ:info@dmx-j.com (担当:濵田)
福岡県公共不動産活用推進プロジェクトの詳細はこちら。