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2025.8.5
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空き家をシェア型店舗に改装!神松寺戸建て再生プロジェクトを振り返る

濵田大史
 

2024年に完成した「FOUR SHARE SHINSYOJI.」は、平屋建て木造住宅を各部屋毎5区画へ分ける形でコンバージョンさせていただいた店舗用賃貸物件です。福岡R不動産で企画から募集・管理まで担当し、社会で「空き家問題」とされるテーマに対し挑んだプロジェクトともなりました。本コラムでは、物件オーナーと設計・企画担当のインタビューを交えつつ、建物再生ストーリーを共有したいと思います。

歴史を感じるファサードタイル。元のセンスを壊さないよう、サインのデザインには気を使った。

親族が愛した住宅、注がれた愛情ごと再生したい

ご親族の住まいを相続されたオーナー姉妹。親族にあたる前所有者も含め物件への愛着が深すぎるあまりに、安易に売却や解体には踏み切れず、長らく活用方法を模索されていたと言います。

物件オーナーご姉妹。活用を模索していく中で福岡R不動産を見つけてくださったそう。

オーナー:実際に空き家問題の当事者になったことで、その難しさについて実感する日々でした。私たちの場合は、もともとの所有者である叔父と叔母が大切に大切に住み続けてきたという経緯があり、「手放す、壊す」という選択肢がなかったことは、苦しくも幸せな悩みだったような気がしています。従兄弟たちも含め、皆が集う場所といえばココだったので、そのぶん素敵な思い出がたくさんある特別な場所です。相続後、デベロッパーや仲介業者、金融機関などに様々なご提案をいただいたのですが「昔のように、この家が輝くだろうか」と考えると、やはり心から納得のいく案には行き当たらず、途方に暮れている状態でした。

これまでのストーリーを知れば知るほど、建物への愛着が湧いてくる。

そんな中、福岡R不動産のサイトを目にしたのですが、物件情報が文章で綴られているところなど、いわゆる不動産屋さんの説明的なそれとはまるで違い、なんだか暖かく、暮らしや建物に対する愛情や情熱が感じられたことを覚えています。そこで抱いた印象には、もしかしたら私たちの中にあるモヤモヤを解消してくれるヒントが隠されているのではないか、と思いご相談してみることにしたのです。

どれだけ具体的に建物の未来を描けるか

オーナー:例えば古民家カフェとか、それっぽい物件の活かし方のイメージ自体、私たちの中にもありましたし、他のところからもご提案はあったのですが、現実味があるかと言われればクエスチョンという感じで。福岡R不動産さんと協議を進めていく中、普通とは違う角度で建物を評価しようとしてくださる姿勢は想像通りのものだったのですが、活用にあたっての中身を戦略的にご提案してくださった点は、正直、期待以上だったと感じています。

堀車庫も母屋同様、店舗区画として改装した。

元堀車庫ならではの低い目線は、明らかに店舗の個性となった。

オーナー姉妹が話してくれたように、築古空き家をベースにしたリノベーションやコンバージョン自体、既視感のあるものです。そのうえで、「福岡R不動産ならではの企画だった」と言えるのは、物件の性格(建物や土地本体、立地、環境、これまでの背景や状況など)に合った活用の方向や改修内容を、福岡R不動産サイトで入居者募集することを前提に模索していける、ということ。僕らは、日々ユーザーさんたちにとっての物件ニーズを理解していて、皆さんも僕らが紹介する物件に一目置いてくれている。長年に渡り築き上げてきたその関係は、「物件を発掘すること」以上にシビアなゴール設定が求められる「物件をつくること」にあっての強みであると自負していて、僕らが専門とする入居促進のノウハウから逆算することで、精度の高い企画作りを可能にしてくれています。

価値ある物件をつくることで利害関係を取り除く

そこで、本物件の活用にあたって決めたことは大きく2つ。①.必要以上の改装をしないこと、②.地域に開かれた場所にすること、でした。空き家が社会問題とされるのであれば、建物を甦らせることも社会を巻き込んで解決していくべきで、空き家が地域に利益をもたらす前提であれば尚更、オーナーだけが頑張る必要はないと思うのです。なにより、物件が持つ背景を汲み取るという意味でも、多くの人に愛される場所にすることで、関係者の想いに寄り添うことができると考えました。

お庭も一部、活用がはじまっている。

具体的には、地域にとって魅力的な店子さんを呼び込むことを第一優先に考え、各区画を小規模事業者の方でも検討のしやすい面積に按分することで、まずは僕ら自身が多くの事業者さんと出会える機会を増やすことにしました。また、あまりコストをかけない内装のまま借主へ引き渡すという方向に舵をきることで、オーナーにとっても現実味の高いプランとなるよう精度を高めていくことに。もちろん、入居者側に負担がかかる分の賃料調整は必要ですが、あくまで補正する程度に考えていて、根本的には建物のブランドを出店メリットとして捉えていただくことでバランスを取るという考えなのです。入居者側で自由に個性を足していってもらうという構造自体、建物を所有する側のオーナーとしても不安が残るように見えますが、仕上がりのセンスに関わる信用は店子さんの選定を通しておおよそ担保することができます。それも、感度の高いユーザーさん達に支えられている福岡R不動産ならでは、と言えるかもしれません。

最終的な仕上げに安心感があるのも、感度の高い福岡R不動産のお客様ならでは。

一見、元民家とは思えない変わりぶりだが、ところどころに元の姿を残している。

元民家が持つ雰囲気は、ホッとする空間作りとの相性が良さそう。

本来は契約的な側面で利害関係にある貸主・借主ですが、個性的かつ魅力的な店子さんに力を発揮してもらうことでWin-Winの流れを生み出すことも可能です。個々の活動を通じて建物全体が評価されることで、より入居メリットを感じられる建物に成長していくという好循環が生まれます。また、物件が地域の目にとまれば店子さんに利益がうまれ、物件がより人を呼ぶようになれば地域の財産にもなるという点でもそうです。空き家問題自体、「空き家の増加→地域の活力衰退」というスパイラルと言われる中、逆のスパイラルを起こしてやろう!という気持ちでいます。

イメージを共有できるパートナーがいる強み

とはいえ、募集段階での基本デザインは、僕らが思い描く方向性や具体性をいかに示すことができるか、という点で重要です。そこで、本プロジェクトでは、古民家再生のスペシャリストである株式会社コテンポの伊藤氏とタッグを組ませていただくことにしました。

施工を監修してくれた伊藤氏。数多くの古民家再生を手がけるスペシャリスト。

伊藤氏(工事監修):中央に土間を配すことなど、ご相談を受けた時点で大凡のベースは決まっていたので、僕としては、より具体性を足していったという感じです。分かりやすいところでは、建物の中心にトイレ2つとミニキッチンを共有設備として置くことにしました。店子さんにとっては限られた専有面積を有効活用できるだけでなく工事費用の削減にも直結しますよね。なにより、ひとくくりに事業用建物といっても、普段、店子さん同士が顔を合わせる機会がなければ何も起きようがないかなと。建物を共有はしてると言えばしてるけど「シェア」っていうニュアンスではないと言いますか。それは、意識的にこちらが解消してあげるべきポイントとして捉えていて、やはり人との関わり合いから笑顔が生まれるような空間を目指したいと思いました。

4DKの居室はそのままに、共用スペースを新たに設けた。

各区画への動線となる長い土間。本企画にとって、なくてはならない仕組みだった。

立派な鳥居まで付いた屋敷神様。物件の個性としてそのままにしている。

内装については、メリハリを大事にする意味もあって部分的に仕上げちゃう、みたいな判断もしたのですが、やはり完璧に仕上げるっていうことはしていなくて。背景に重きを置いたうえで、建物が培ってきた歴史とか時間を次の世に繋いでいくっていうイメージでお手伝いさせていただきました。古いものに見出す「味」とかって、あくまで主観的な評価でしかないからこそ、その裏にあるストーリーも含めて注目すべきだと思いますし、建物独自の色ってそういう部分から滲み出ていくものかな、って。

天井現しにすることで顔を出した立派な梁。

最も元の雰囲気を残した区画。無垢床で雰囲気をアップデート。

もっともっと再生したい!!

完成から1年以上が経過した今、順調な滑り出しを見せている「FOUR SHARE SHINSYOJI.」。僕たちが予測していた以上に近隣住民の方が足を運んでくださっています。そして、その輪が広がるように、各所から多くのお客様が訪問されているようで、本当に嬉しい限り。オーナーのご親戚が、賑わいを見せる物件の様子を目にされた際、「亡くなった叔父と叔母が喜んでいる顔が目にうかぶようだ」と、評価してくださったそうです。個人的には大変心にくるレビューであり、自信が深まる大きな出来事となりました。

活用にあたってなにかと厄介な造成地も、事業用となれば視認性の後押しに。

福岡R不動産は、不動産業界にあって一際風変わりな文化を形成していると自負(自覚?)しているのですが、そんな僕らだからこそ寄り添える感情やストーリーがまだまだ存在すると考えていて、それを丁寧に汲み取りつつ、各オーナー様にとっての最良のカタチを模索したいと思っています。

当サイトでは、建物をお持ちのオーナーさま、管理会社さまからのお問い合わせフォームを設けています。本プロジェクトと同じ木造家屋に限らず、空きビル、集合建物の一室などでも検討できますので、まずはお気軽に情報をお知らせください。

【併せて公開中!】インタビュー&建物紹介動画

本コラムを作成するにあたって撮影した、ありのままのインタビューと物件の雰囲気が楽しめる動画コンテンツを併せて配信中です。

建築企画:髙橋昂平(福岡R不動産/株式会社DMX)

文・撮影編集:濵田大史(濵田建築写真事務所)

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