福岡県八女郡広川町 地域づくりの取り組み
福岡県南部の筑後地域にある広川町。
久留米市、筑後市、八女市などに囲まれた広川町は、面積37.94k㎡、人口約2万人の小さな町。古くから久留米絣の生産地として伝統産業の長い歴史があり、また、季節ごとに多様な果物を育むフルーツの産地でもあります。
実は、この広川町の地域づくりや移住に対する施策や取組が、密かに注目を集めています。
「ひろかわ新編集」のホームページ。ここへ来ればプロジェクトやイベントなどのいろいろな情報を見ることができます。(画像をクリックするとサイトに飛びます)
キーワードは、「ものづくり」と「女性目線」
広川町が、まず始めたのは、地元に眠っている足下の素材を発掘し、再編集すること。総合プロデューサーに地域づくりや事業プロデュースに実績のある江副直樹さん(ブンボ株式会社)を迎え、まさにその名の通り、「ひろかわ新編集」というプロジェクトを起ち上げ、地域資源や課題に対する新たな取り組みと情報発信をスタートさせました。
ひろかわ新編集統括である、広川町役場政策調整課の氷室さんは、町をアピールするにあたって、若い女性に着目したといいます。
広川町役場政策調整課の氷室さん。まさに広川町の地域づくりにおけるキーマン。
「まず、多種多様な地方創生が謳われる今、背伸びして遠くにその答を求めるのではなく、自分たちの足下にある宝に気づき磨くこと、町の日常をしっかりと見つめ直すこと、自分たちらしく誇りを持てる地域づくりをすることが移住定住にも繋がる。僕らがそう考えて出てきた答えは、地域資源である絣や果樹園など地域で受け継がれてきたものづくりの視点でした。」
「一方で、町の未来や移住定住というものを考えたときに女性にこの広川という町に関心を持ってもらうことが、ひとつの大事な要素だなと考えていました。その観点で町を見つめ直してみると、久留米絣や果樹園もファッションやスイーツとか女性にとってキャッチーな存在にも置き換えることができます。そうやっていろいろなことを想い描いていると地域資源に対しても、いろいろな可能性や一面が見えてきた。そうして、ひろかわ新編集が始まりました。」
広川町には全国的にも有名な伝統工芸「久留米絣」の織元の工房が多く存在します。
集会所をリノベーションした交流施設「kibiru」
先だって募集された、「ひろかわ新編集」の活動メンバーとなる地域おこし協力隊も、ものづくりの経験やスキルを持つ人という珍しい条件付きだったとのこと。
そして、地域おこし協力隊の拠点となっている交流施設「Kibiru」にも特色があります。
地域の集会所をリノベーションした施設には、広いウッドデッキ、集まりやすそうな土間、機能的なキッチンなどの設備に加えて、デザインソフト一式が入ったパソコン、刺繍ミシン、ロックミシンなどの主に服飾などのものづくりに必要な機器が揃う個性的な仕様、2018年4月からはいよいよ「Kibiru」の一般開放もスタート。家ではなかなか使うことのできない縫製用の機器などを、住民だれもが使うことができるようになります。
ここには、すでに広川町に住んでいる人や移住してきた人たち、特に子育て中の女性たちが無理なくものづくりの仕事に携われたり、人や情報、地域を繋ぎ結ぶ場にしたい、という思いがこめられているそう。ちなみに「きびる」とは広川の方言で「結ぶ」という意味。
元集会所をリノベーションした交流施設「kibiru」。担当したのは福岡で注目の若手建築家、TERMINAL一級建築士事務所の宗像さん。
玄関を入って印象的なのが「U」の字の土間としっかりとした梁。天井が抜かれて開放的な空間です。
この「Kibiru」と、別の場所にある元駐在所を改装した制作施設「Hodoku」では、クリエイターを広川町に招いてフィールドワークや制作を行うプロジェクト「HIROKAWA CREATORS HUB」が行われています。
取材時はちょうどファッションデザイナーの日野美穂さんが、新ブランド起ち上げ準備と福岡市で開かれるファッションショーの準備のため滞在されていました。
他にも、広川町のフルーツや野菜を使った「ひろかわ発酵の3日間」や、女性の起業をテーマにしたプログラム「ひろかわまちじょ」などさまざまな企画も。
kibiruには、本格的に服飾づくりができる機器がずらり。なんとも珍しいコンセプトの交流施設です。
「ひろかわ新編集」メンバーが地域を回って素材の発掘に勤しんできた結果、最近では地元の会社から「こんなものがあるんだけど、どうしたらいいかな?」と相談されることも。メンバーの活動がきっかけになって、地域の方々の見方も変わってきたようです。
桶製造会社からは小さな桶サンプルの活用について相談があり、kibiruで色とりどりのおこわを詰めて実験したり。絣の工房にはアパレルメーカーを案内することも。
地元の桶製造会社からの相談で試してみた、木のお茶碗。ちなみにkibiruにはキッチンスペースもあります。
これからアツくなりそうな上広川地区
そんな広川町で、いま注目されているエリアが上広川地区です。広川町の東側半分ほどを占めるエリアで、急斜面の山地であることもあって高齢化が進み、上広川小学校の児童数も減少傾向。
ところが「せっかく広川町に来るのなら、ぜひ上広川地区へ」という氷室さん。
山あいに連なる段々畑の風景や美しい清流、素朴な校風の小学校など、都市部にはない、広川町のいちばんいいところがギュッと詰まっていると言います。
上広川地区の中山間部。段々畑や長閑な風景が広がります。
「地元の方は、広川町にはなにもない、なんて言うんですが、それ自体がいいところだと思うんですよ。周りの地域から広川にやってきて、静かな山あいでほっとひと息ついて癒やされて帰ってもらえたら」
そんな上広川地区では今、地域おこし協力隊のみなさんが段々畑のひとつを借りて自分たちで野菜を作る試みが行われていたり、空き家や倉庫が再活用されようとしていたりと、新しい取り組みの芽があちこちに。
さらに、4月には上広川地区に宿泊可能な新しい交流施設「Orige」がオープン予定。(Origeについてはオープン後、レポート記事公開予定です!)
平成29年10月からは、子育て世帯を対象に、町が上広川校区での住宅取得を支援する制度も始まっており、上広川校区で住宅を新築、購入、リフォームする世帯に対して援助が行われます。(詳しくはこちら)
足下にある資源を見直し、女性の目線や新しい視点で再編集・発信することで注目を集めはじめている広川町。なんだか今後もどんな発展があるのか私たちも楽しみでワクワクしています。気になる方はまず是非一度、足を運んで欲しいと思います。