column 2024.6.10
 

不動産の枠をこえて〜ギャラリー移転編〜

行友 萌恵(福岡R不動産/株式会社DMX)
 

 2024年、福岡県は住宅地や商業地など、すべての用途を合わせた上昇率が全国1位となりました。それに伴い相次いでいるのが建て替えによる立退問題です。立退を理由としたテナント探しのご依頼が、この1年で何件あったことでしょう。今回はその内のおひとりで、物件探しだけでなく内装デザイン・工事までお手伝いさせていただいたお客様との一連のストーリーをお届けします。

「以前施工したギャラリーが立退になるので、移転先を探してくれませんか」と連絡をくれたのは、福岡R不動産が昔からお世話になってる仲間の大工、牛島さん。

独自のセンスと感覚で唯一無二な空間を作り上げる、クリエイティブな大工さんです。「他の大工さんには説明してもわかってもらえないけれど、牛島さんなら形にしてくれる」と感度の高いクライアントからの指名があとを絶ちません。

キャップ姿がトレードマークの牛島さん

昨年から福岡R不動産の営業メンバーになった私ゆきともは、入社してすぐにお会いした牛島さんに「仲介だけでなく、ゆくゆくは内装のデザインも提案していける人になりたいので、勉強させてください」と弟子入りし、ときどき現場作業を経験させていただいていました。

そして今回、ギャラリーの物件探しがうまくいったら一緒に内装をしようよ、とありがたいお誘いも受け、いざお客様とミーティング。

牛島さんが手掛けたギャラリー「ASTRoPE」(旧ASTRoPE)


契約期間中に突如決まった建て壊し

牛島さんにご紹介いただいたのは今泉でギャラリーを運営する中野さん。
福岡・東京・熊本でトータル25年ほどギャラリーやアートイベントのお仕事に従事されています。人生も折り返しと感じる年代になり、後悔のないように生きたい、好きなギャラリーの仕事を自分なりに続けていきたいと、2022年に自身のギャラリーASTRoPE(アストロープ)をオープン。

ところが契約満了まであと1年を残した状態でビルの建て壊しが決まってしまいました。

依頼主の中野さん。長年アートの世界に従事し、アーティストからの熱い信頼をよせています。


ネガティブなきっかけからポジティブな感情に変わるような物件探しを

「移転してよかった」とポジティブな感情に変わるような物件が提案できたらとお探し開始。

旧ASTRoPEは恵まれた立地にありながら、隠れ家的な要素もあり、そうそう出会うことのない物件でした。

それを超える物件を!....と探すものの、築浅の味気ない物件、同じ広さで倍の賃料がかかる物件、不特定多数の出入りがNGだったり、改装に制限があったり。近隣エリアの相次ぐ立退事情も重なって、なかなか思うような物件に出会えませんでした。

上人橋通りにあった旧ASTRoPE(2階部分)。こんなところにギャラリーがあったなんて!中野さんの選ぶ作品を目当てに県外から通われる方も。


移転先に決めたのは福岡R不動産で何度かご紹介してきたレトロビルの1室

そんな悶々とした日々を過ごしていたある日、以前から何度か当サイトでご紹介しているセルフビルド可能な一室が候補に浮上してきました。

風呂、壁、床の一部が撤去され、配管が剥き出しになった現況は、手を加えるにも難易度高く玄人向け。「このままじゃ誰も借りてくれないだろうから改装しようか」と話すオーナーさんに「このままがいいんです!」と担当スタッフがストップをかけていました。

牛島さんの技術とセンスで激変する予感大。駅徒歩5分という立地に加え、以前より広くなり、賃料も予算内というスペックも文句なしです。

ところどころ解体された状態での貸し出し。

キッチンはないのにガス管が部屋の中央を通っている。初心者にはなかなかハードル高いぞ、な物件。

広いルーフバルコニーがついた区画

牛島さんも一緒に内見し、あれよあれよと改装イメージの話に。

「押入れスペースを利用してストックをつくるのは?だったらそこにカウンターをもってきて作業スペースもつくろうか」アイディアを出していくうちに、ここならいい空間が作れるのではないかという期待が湧いてきます。「ここ以上の物件はないですね」と打ち合わせ後すぐにお申し込みとなりました。

初回打ち合わせはあっという間に時間がたち、日が暮れました。

通常、デザインを決める人(建築士やデザイナー)と大工さんが別なので、一度工事に入ると大きなプラン変更はありません。
しかし牛島さんはデザイナーを付けず、口頭での聞き取りやイメージ図を見ながら、お客様の考えをしっかりと汲み取ります。パースなどは使わなくても出来上がりは言ったとおりになっているのが牛島さんマジック。作りながらバランスをみて進めていくことができるのもこのスタイルならではです。

写真を撮って、その場で書き込みながらイメージを共有。


Let's 内装!!!

多くの現場を抱えている牛島さんですが、実は牛島さん以外の社員さんやお弟子さんはいません。牛島さんが主導となり、お客様やその友達、建築・デザイン関係の学生さんを巻き込んで一緒に作り上げていると言うから驚きです。

解体作業には大学生にもご協力いただきました。

私も完成まで時間を見つけては参加。朝は物件案内をして、午後から解体、ペンキ塗りなど不動産業と大工仕事を掛け持ちするような日々をおくりました。

ストック兼カウンター。小窓が切り抜かれたようなデザインは、ゆきとも案が採用に!

だんだん壁ができてきました。

中でも大変だったのが、ペンキ塗装。四方八方、白く塗るだけでもかなりの時間がかかりますが、それを2度塗り、3度塗り...途方にくれる作業でした。

顔にペンキをつけながら、くる日もくる日も塗装、パテ塗り。

当初、床はモルタルでラフに仕上げる予定でしたが、塗り終わってみるとなんだか違和感。モルタルの上から白く塗装することに。結果的に大成功でした。


出来上がったのがこちら

床壁天井すべてを白く塗装した、ホワイトキューブな空間に。

小窓のカウンターはこだわりポイント。キヨスクみたいなイメージで、すこし奥まったデザインにしています。

右の隠し扉をあけるとルーフバルコニーへ繋がります。

床・壁・天井を全て白に塗装し、作品が映える空間に。

この物件の特徴である広いルーフバルコニーはあえて壁で隠すというアイディアに驚きました。展示スペースを確保できるうえ、日の光が入らないことで時間の感覚がなくなり、作品鑑賞に没頭できるというメリットが。

カラフルな共用部とのギャップがまた良い!

カラフルな共用部から一歩入ると白銀の世界。このギャップがかえって、非日常のムードを作るファクターとなっています。

仲介の枠をこえて

仲介、デザイン、工事と全ての工程に携われたことで、これまで味わったことのない達成感がありました。手を動かし日に日に変化していくことの喜び、ゴールを目指してみんなで働く楽しさ。

立退から移転という大きな節目に立ち会うことができ、自分もチームの一員として、お客様と同志のような関係性で働けたことが何より嬉しかったです。

そして、この思い出が私にとっても中野さんにとっても励みになる日があるのでは、とコラムとして残したいと思いました。

その後も牛島内装さんにはお世話になっており、実は第2弾、第3弾と始動中。

“不動産の枠をこえて”のシリーズ化にご期待ください。

ASTRoPE

福岡市中央区平尾1-4-7 土橋ビル
Instagram @astrope77
https://www.instagram.com/astrope77?igsh=NDFzdHhodDN5eGE2

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