2015.2.4

 

糸島リアル移住日記(2)土と緑と海、そして人

松尾隆文(福岡R不動産/DMX)
 

これまでの糸島リアル移住日記
糸島リアル移住日記(1)糸島は25年前からアツかった

糸島に引っ越す際、ちょっとした心構えがありました。それは「積極的に地域に溶け込む努力をする」ということ。当たり前のことですが、あえて意識したのは、そうしないと楽しめないし、田舎に住む意味がないと思ったからです。軽い気持ちだったわりに、これだけは強く念じていました。

暮らし始めると、楽しくてしょうがない。土と緑と海が間近にあるだけで、これだけ満ち足りた気持ちになるとは! 最初は8つもある部屋をどう使っていいか分からず、親子3人、1部屋で食べ、くつろぎ、眠ったものです。何しろ築80年、入るのが怖い部屋もありました。襖を取り払って広く住めるようになったのは2年目に入ってからのことです。

かがり火に集まる男たち

波穏やかな寺山海水浴場。地元の人たちが定期的に清掃しています

集落の人たち総出で行う作業がたくさんありました。神社の掃除当番、道路の除草とバラス敷き、海水浴場があるのでシーズン前と後の海岸清掃。各家から最低1人参加しないと罰金。当時、驚いたのは、男性の代わりに女性が出ても、いくらか安くなるとはいえ罰金はあったのです。男社会もここまでくると可笑しいくらい。交流が深まって家々の事情が見えてくると、結局、奥さんに頭の上がらない男性が多かったりします。

ある夜、集落の入り口の三叉路にかがり火が燃え、男たちが集まっていました。こんなときはうかつに友人を招いたりするとまずいことになります。町議会選挙が間近で、集落で推す候補者を守るため、他候補の陣営が集落に入るのを監視しているのです。こういったことさえ当時の僕には新鮮でした。今はもうこんな光景を目にすることはありませんが。

昭和30年代の故郷に通じる集落の佇まい

寺山の集落。佇まいと風合いに惹かれます

「釣りはしない、マリンスポーツには興味なしと言うと、「何しに糸島に来たの?」と今でもあきれられます。僕は糸島の何に惹かれたのか。一つは集落の佇まいです。昭和30年代の僕の故郷によく似ています。

僕は小さいころ体が弱く、小学校の体育の時間はほとんど見学でした。外を駆け回って遊んだ記憶があまりありません。近所に里山や畑、田んぼ、空き地がいっぱいあって、そんな風景をよく1人でスケッチしていたものです。

だから最初に寺山の集落を見たとき、とても懐かしかった。細い生活道、生垣、さびたトタン屋根、土のにおいと草いきれ。多くの家の外壁はスギ板で、時を経てシルバーに変色している。その風合いは故郷の家々と同じでした。それらの光景が僕の中で何かを喚起させたように思います。タバコ畑の中をまっすぐ伸びる農道を前に、目元が潤むのを感じながら、子どものころできなかったことが、ここでできるような気がしたのです。

農道も舗装されることが増えましたが、僕はわだちの残る農道が大好きです

新しい出会いと共感

引っ越して間もなく、ご近所からよく自家製の野菜や漬物をいただくようになりました。お礼を言いに訪ねた先で話が弾み、空いている畑を使わせてもらうことになったり、隣の集落の漁師さんと意気投合し、水揚げのたびにイカを届けてもらったり。半年もすると、集落の中での自分の立ち位置が見えたように思います。

畑を借りて野菜作りにチャレンジ。娘も結構ワイルドに育っていきました

同時に、集落のつながりとは別に、新しい友人があちこちにでき始めていました。とくに陶芸や家具、染織など創作に励む人たちとの出会いは大きく、彼らの生き方にどれほど勇気づけられたことか。妻は車の免許を取り、古いスバルの軽に3歳の娘を乗せて彼らの元へ足繁く通い、親交が深まっていきました。

僕は当初、事務所を福岡市内に置いたまま車で通っていましたが、1年後に引き払い、寺山の家の1部屋を改装して仕事場にしました。瓶ビールをケースで注文する習慣が身についたのもこのころです。

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このブログについて
 

海も川も緑も、そして街も空港も、なんだってすぐそこにある福岡。東京から移住して、気づけばその魅力を満喫すべく、会社を立ち上げたり、倉庫のような物件を改装してオフィスにしたり、果てには芥屋の海沿いに土地を買ってしまったり。徐々に増えていく福岡R不動産のメンバーとともに、この街の魅力を再発見する日々を綴ります。
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著者紹介
 

本田雄一
長谷川繁
坂田賢治
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