column 2014.3.25
 
【連載】糸島移住者インタビュー

vol.2 ものを創る人こそ、糸島へ

藤井優子
 

「移住」というとき、ただ単に引っ越すのではなく、より積極的な意志や目的をもって住まいを移す、というニュアンスが含まれている気がします。最近、よく耳にするクリエイターの糸島移住。彼らの強みは、そのスキルをもって仕事を開拓できることです。
糸島移住者インタビュー第2回は、糸島に移住して1年、「RISE UP KEYA」のオーナーでありアートディレクター・桐原紘太郎さんの話をお届けします。

糸島の海岸でBBQを楽しむ桐原紘太郎さん。

自分たちで価値をつくる暮らしをしたかった

──震災後に会社を辞め独立、移住を決意し、東京から糸島へ引っ越して来られたということですが。

桐原:もともと都会暮らしが苦手で、仕事の経験を積むために東京を拠点にしていましたが、ゆくゆくは地方へ移ってゆっくりとした暮らし方をしたいと思っていたんです。2011年の震災を契機に、都会から離れることを決意しました。直感を大切にしているので、沖縄、京都、奈良など、候補地はすべて旅行がてら訪れましたが、なかなかピンとくるところがなくて……。そんな中、アメリカに留学していたときにお世話になった人が住んでいて何度か訪れた糸島の存在を思い出したんです。海も山も近いし、食べ物もおいしい。それに、福岡市内や空港にも近い。住む場所としてもそうですが、仕事場としてもかなり魅力的だと思えました。加えて、後押しになったのが、人との出会い。移住候補地として改めて訪れたとき、すでに糸島に移住した人たちをはじめとして、出会いがごく自然に広がっていったんです。いい連鎖が起こると直感しました。

現在桐原さんが住む芥屋(けや)。その海岸は福岡有数のサーフスポットでもある。

──自然の豊かさ、人との縁、食べ物の美味しさ……。さまざまな場所を移住先として検討する中で、「これだ!」と思える条件が、糸島には揃っていたと。ただ、物件探しのために再び単身で出向いていろいろと探してみたものの、いいと思える物件にはなかなか巡り合えなかったそうですね。

桐原:物件探しには苦労しましたね。自分で手を加えたりしながらつくっていく住まいを実現したかったので改修が大丈夫な物件を探していたんですが、なかなか見つからなくて……。
実は糸島に来てから、更にもう一度引っ越しをして、今のところに落ち着いているんですが、初めから理想の物件に出会うことは難しいと思います。今の家も移住後に現地のいろんな人との縁で見つけることができました。田舎ならではというか、都会と違って物件自体が少ないので、気長に探さないと納得いく家を見つけることは難しいみたいですね。

元スーパーを自分でリノベーションした「RISE UP KEYA」。現在の桐原さんの住居であり、人々が集うカフェ。

──糸島に移住して丸1年。2回の引っ越しを経てようやく、腰を据えてやりたいことを実現していく環境が整いました。それが、桐原さんの今の住居兼カフェ、「RISE UP KEYA」ですね。

桐原:この場所に引っ越してきてすぐ、近所のおばあちゃんが野菜を持って挨拶に来てくれました。清掃業のご近所さんは、窓が大きくて大変だろうからって、窓拭きをしてくれたり。ここでは、例えば、サービスとサービスだったり、スキルとスキルだったり、お金ではない価値の交換が自然に行われています。僕自身、かつてのような、与えられた価値を享受するだけの枠にはまった暮らしではなく、自分たちで価値をつくる暮らしをしたかったので、こういった昔でいうところの物々交換的なやりかたも生活に取り入れていきたいと思いました。そういった価値交換をしながら、同時にコミュニケーションもとれればなあと。

「RISE UP KEYA」内部。天井を抜き、気持ちのいい大空間にリメイクした家具が並んでます。

アイデアが自然と浮かんでくる

夏の天気の良い日は、仕事を「RISE UP KEYA」の軒下や近くの海岸ですることも。

──桐原さんのお仕事はアートディレクターでいらっしゃいますが、仕事環境的には糸島はいかがでしょうか?

桐原:クリエイティブな仕事をする環境としては最高です。東京にいるときはアイデアを絞り出している感覚でしたが、ここにいると自然と浮かんでくることが多い。海に行っているときや、ドライブしているとき、家具のリメイクに没頭しているとき……、ふっとアイデアが降りてくるんですよね。ものを創り出す人こそ、こういった自然環境に身をおくべきだと実感します。
糸島の中でも場所によって通じにくいところはありますが、基本的にインターネット環境さえ確保できれば、不便さはまったくないですね。仕事の依頼・受注・打ち合わせも、クラウドワークス(注)やスカイプなどのウェブサービスをフルに活用して、日本だけでなく、世界中の人と仕事をしています。糸島に来てむしろ仕事の幅も広がり収入も増えたし、増えたからこそやりたいことが心置きなくできる、いい循環です。


(注…クラウドソーシングを活用した仕事マッチングサイト クラウドワークス

歩いてすぐの芥屋海岸にはお子さんとよく遊びに行くそう。

──仕事の合間など、思い立ったときにすぐ大自然に触れられるのが糸島暮らしのいいところですが、ご自宅から歩いてすぐの芥屋海岸へは、2歳になる娘さんとよく一緒に散歩に行かれるそうですね。子育て環境としてはどうでしょうか?

桐原:クリエイティブな仕事をする環境としては最高でいいですね。東京にいたときは娘の咳がひどかったんですが、糸島に来てすぐに治りました。風邪も3カ月に一回くらいひいていたのですが、ほとんどなくなりましたね。今は、元気すぎて手に負えないくらい(笑)。子どもに対する周囲の目も違います。自分もそうですが、都会にいたときは仕事に追われ、時間に終われていた。こちらは余裕がある分、子どもに対する眼差しも温かいです。
娘にはいろんな視野で物事を見ることができるようになってほしいですね。以前、アメリカにいたときに感じましたが、海外はさまざまな人種や文化に接する機会が多く、いろいろな考え方があるのが当たり前の環境。そのときの経験が僕のバックグラウンドをつくっていると思います。だから、娘が小学校に上がる前に海外への移住も検討しています。

──最後に、今度の展望を聞かせてください。

桐原:「RISE UP KEYA」は、いろんなアイデアを実験・共有する場所にしたいんです。これからの生き方・暮らし方をどうするべきなのか、家族ってどうあるべきなのか。また、世の中に対してどういうことをしていきたいのか。常々考えていたことを、震災後はより真剣に考えるようになりました。いろんなことが自分たちの世代のうちには解決するとは思っていませんが、次の世代につなげることはできる。子どもたちの意識を変えていくことが、自分たちの世代の仕事であり、また表現者である自分の役目だと思うんです。

オープンして間もないというのに「RISE UP KEYA」のイベント開催時には、たくさんの人が。

時間や場所に縛られないワークスタイルや循環を意識した暮らしを選ぶこと。社会のシステムに疑問を持って、自分で価値を見出し、つくること。それらの試行錯誤の中に、自分らしい生き方の輪郭が見えてくる。
実は、桐原さん自身は糸島と海外との二拠点居住の実現のためにニュージーランドに2~3年行ってしまうそうですが、「RISE UP KEYA」は、お友だちが引き継ぎ、引き続きイベントを通して、さまざまな実験が行っていくとのことです。


次回「糸島移住者インタビューvol.3」では、ベルリンから糸島にUターンしたアーティストのインタビューをお届けする予定です。お楽しみに!

■今回お話を伺った方のプロフィール

桐原紘太郎さん(32歳)/糸島移住歴1年/仕事 アートディレクター/その前に住んでいた場所 東京都
※2014年3月現在
Facebook:RISE UP KEYA

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