糸島リアル移住日記(4)移住の新しい風が吹いてきた

text=松尾隆文(DMX/福岡R不動産)

これまでの糸島リアル移住日記
糸島リアル移住日記(1)糸島は25年前からアツかった
糸島リアル移住日記(2)土と緑と海、そして人
糸島リアル移住日記(3)小さなイベントづくしの日々


僕のまわりの移住者たち

寺山の借家を訪れる友人知人の中で、最初に移住したのはIさん一家です。米国での暮らしが長く、帰国して間もないころ、雑誌に載った僕たちの記事を読んで訪ねてくれたのが最初の出会いでした。

ご夫婦とも環境意識が高く、パーマカルチャー(*)という考え方を、僕は2人を通して初めて知りました。Iさんは福岡市西区から1年ほど通って二丈の山中に土地を見つけ、地元の大工さんと膝を突き合わせて打合せを重ねました。そうしてできた家は、昔の木造校舎のような懐かしさがあります。ご主人は仙台、奥さんは秋田の出身。米国から帰国して福岡へ、そして糸島へと、振幅の大きな移住です。

*パーマカルチャー/パーマネント(永久の)とアグリカルチャー(農業)を組み合わせた造語で、1970年代にオーストラリアで提唱された概念。「人間にとって持続可能な環境をつくり出すためのデザイン体系」のこと。


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Iさん宅は敷地内に小さな沢が流れるうらやましい環境。奥さんがつくる米国仕込みのタルトはとても美味しく、日本各地にファンがいます。


寺山の集落は、一見、僕たちが移住した25年前とほとんど変わっていませんが、新しい風は確実に吹き始めています。

古い家に賃貸で入居する家族が複数、現れました。半世紀から1世紀を経過しようとする家に若い世代が移り住むのは、我ながらワクワクします。存在意義を失いかけた家がそのまま新しい価値観で蘇るのですから、すばらしいことだと思います。

集落のはずれの林や入江には、いつの間にか真新しい家が増えています。つい1ヵ月ほど前にも海に近い場所に新築の家ができたばかり。自然が好きで田舎志向の人たちにとって、寺山はちょっと隠れ家的な魅力があるエリアなのかもしれません。


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寺山の入江にひっそりと建つ家々。目の前の海にマイ・ボートが浮かび、まさにプライベートビーチ!


薪ストーブ事件を発端に土地探し

糸島での暮らしにすっかり慣れた2年目の秋、家具作家の友人といっしょに薪ストーブを購入しました。製作地の長野から鉄道輸送。運び入れたストーブは重さが140キロもあり、座敷の畳を上げて床下を補強しました。寒くなるのを待って友人を招き、豚汁パーティーを兼ねた「火入れ式」を挙行したまではよかったのですが...

「危ないからやめてくれ」

飛んできた大家さんの一声でイベントは中止。その日から薪ストーブは座敷の中央で飾り物と化してしまいました。蒸気機関車のような存在感を放つストーブを横目で眺めながら、ためいきをつく毎日。賃貸の限界を感じないわけにはいきません。


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火を燃やせない薪ストーブなんて! この苛立ちが新築願望に火をつけた。


「思い切り火を燃やしたい!」。こんな単純な動機から新築願望が募り、土地探しが始まりました。

妻との合言葉は「坪1万円以下」。ほどなく二丈に坪8000円の土地が見つかり小躍りしたものですが、通じる道がなく断念。それにしても「どこそこにいい土地がある」と聞くとすぐに現地確認できるのは、地元に住んでいるからこそ。情報も入りやすい。場所によっては朝、昼、夜と1日に何度も現地の様子を見ることができました。

借家から2キロほど離れた海の見える高台に土地が買えたのは、薪ストーブ事件から年が明けた春のことです。権利書を手にしたその日、嬉しくて嬉しくてテントを張って飲み明かしました。こぼれるような星空を見上げると、人工衛星が南の空をゆっくりと横切っていきました。それから家ができるまでの1年間、家族でやったキャンプは数えきれません。


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かつて住宅はほとんどなかったのが、今や移住者ばかり20数世帯に増えました。海岸清掃の時など、それはにぎやかです。


一帯は気兼ねなくキャンプができる環境だったのが、数年もするとあちこちで住宅が着工。どうも僕たちの家が呼び水になったようです。今ではすっかり住宅街の様相。行政区の中で最も世帯数の多い集落になりました。全員が関東を含む市外からの移住です。

工房開設を糸島人気の第1次ブームとすると、この時代は第2次糸島移住ブームと呼べるのかもしれません。

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このコラムについて

海も川も緑も、そして街も空港も、なんだってすぐそこにある福岡。東京から移住して、気づけばその魅力を満喫すべく、会社を立ち上げたり、倉庫のような物件を改装してオフィスにしたり、果てには芥屋の海沿いに土地を買ってしまったり。徐々に増えていく福岡R不動産のメンバーとともに、この街の魅力を再発見する日々を綴ります。

著者紹介

本田雄一
長谷川繁
坂田賢治
松尾隆文

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